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ピックアップ がんばる人間工学家!

インタビュー企画 ピックアップ がんばる人間工学家

第7回 地方独立行政法人北海道立総合研究機構:吉成 哲さん 中島康博さん

第7回
     吉成 哲さん、中島康博さん
地方独立行政法人北海道立総合研究機構

第7回の「がんばる人間工学家!」は、北海道に暮らす人々の生活向上と北海道の産業振興に関わる仕事に従事されている、北海道立総合研究機構 の吉成哲さんと中島康博さんです。北海道の短い夏の清々しく晴れた日に、北海道大学に隣接する工業試験場を訪ね、お話を伺いました。


人間工学との出会い
山田
人間工学と出会われたのはいつ頃だったのでしょうか?キャリアも含めてお聞かせいただけますか?
吉成

第7回 地方独立行政法人北海道立総合研究機構:吉成 哲さん

吉成 哲
(よしなり さとし)
プロフィール
北海道立総合研究機構*1 工業試験場 製品技術部デザイン・人間情報グループ 研究主幹。博士(工学)。デザイン開発及び人間情報応用に係る研究マネジメント、試験研究及び技術支援に従事。

第7回 地方独立行政法人北海道立総合研究機構:中島康博さん

中島 康博
(なかじま やすひろ)
プロフィール
北海道立総合研究機構 工業試験場 製品技術部デザイン・人間情報グループ 主査(人間情報応用)。博士(工学)。生体情報計測に基づく製品評価、人間情報を応用した研究開発ならびに技術支援に従事。

私は機械工学の出身で、初めての就職先が大手時計メーカーの研究開発部門でした。そこでは、時計部品製造のための社内機からスタートし外販展開した工作機械を作っていました。機械ですので、やはり機能が最優先となります。高い性能をどんどん追求していって、業界のトップを目指していました。そんな中、当時の上司が開発者ならではのこだわりを持っていたのです。もちろん機能も必要だけれども、使う人の使いやすさということまで広く見られるのが開発で、上流にいる者の責務だみたいなことを言っていたんです。
山田
会社にそのような流れがあったのでしょうか?
吉成
その上司が、たまたまそのような考えをもっていたということでしょうか。単純に、開発にはユーザー目線で広く見渡すことも必要だ、ということを直に植え付けられたというのが、人間工学との出会いでした。
その後、北海道で地域に貢献できる職があるという情報をいただき、運良く試験に受かってこちらのほうへ戻ってきました。ここでは、それまでの機械開発のキャリアが活きる部署に入りました。それから、2002年に新設された人間情報応用科に異動し、今はデザイン・人間情報グループという部署です。
山田
中島さんはいかがでしょうか?
中島
私も専門は機械工学です。大学ではゴルフのドライバーとスイングの最適化についての研究をしていました。機械振動学のテクニックを使って、スイングに対してどうやったらドライバーのヘッドスピードが最大になるかということを大学4年生と修士を合わせて3年間やっていました。卒業後すぐこの研究機構に入り、その後は(吉成さんと)ほぼ同じ経歴を辿っています。
吉成
2002年当時の仕事は、福祉機器が今よりは多かったでしょうかね。福祉機器に取り組んだのは、世の中の需要があって施策としても重点的にやりましょうという背景があったからです。いろいろなことを勉強させてもらいながら研究開発をしてきました。




第7回 地方独立行政法人北海道立総合研究機構:吉成 哲さん 中島康博さん

山田
勉強はどのようにされたのでしょうか?
吉成
付き合いのあった大学の先生や国の研究機関、学会や研究会で出会った方々など、周りのいろいろな力を得ながらやってきました。


仕事の概要
山田
普段のお仕事について教えてください。
吉成
研究機構のメニューに、技術相談というものがあります。ここに寄せられた相談への対応がきっかけになる仕事が多いです。
山田
技術相談というのは?
吉成
何かに困った企業さんが、研究機構の窓口に電話やメールで相談を投げかけます。その相談が、対応できる技術分野のところに振り分けられます。そして、人間工学に関わる相談であれば我々につないでくれるという仕組みになっています。
逆もあります。我々が出掛けていって設備利用や講師派遣などさまざまな技術支援メニューをいろいろなところで広報しているときに相談を受けるということです。
受け身の部分と宣伝していく部分と、さまざまな機会があります。
山田
他にはございますか?
吉成
いろいろな試験機器を開放し、企業の製品開発などで利用いただく中で、やり方はどうしたらいいかとか、それはどういう目的でやるんですかといったやり取りをすることがあります。それをきっかけに、もう少し深いところで支援できないかと言う話になったりすることもあります。
山田
技術研修もされているんですか。
吉成
分野ごとに傾向は違いますが、我々のところは大勢を相手に汎用的な研修をするというよりは、個別対応が多いですね。
山田
人間工学の相談というと、どんなことが多いですか?
吉成
そうですね、単純なところでいうと、センサで圧力を測りたいというものから、もっと難しいところでは、他との差別化をしたいのだけれど、どんな指標を測ったら良いか、といったご相談もあります。これは結構難しいですね。
山田
そうですよね。企業側もどうしていいか分からないし、試験場側も全容を把握しているわけではないという。
吉成
そういう部分の難しさがありますね。企業さんは製品や使い方には詳しいけれど人間工学を知らない。我々は、その製品の使われ方から見ていかないと、何を測ったらよいか分からない。その間での擦り合わせが難しいですね。
人間工学に対する一般的な認識
吉成
誤解を恐れずに申しますと、人間工学的に測れば、良い結果が出るだろうというように期待していらっしゃることが多いのですが、かならずしもそうではないということを最初にお話しさせていただいています。後々、期待外れということになっても双方にとって良くないことですから。人間工学で測るということは意外と大変です。多様な測定項目と得られたデータの処理作業の大変さは、一般の方々にはなかなか伝わらないというのでしょうか。そのような作業をしても何かを得たと思われない時もあります。
山田
企業の方でも人間工学はハードルが高いと思われているようです。大変な部分はあると思うのですが、敷居が高いと思われてしまうと、私のような立場の研究者でも、同じようにやりにくいときがあります。
他に普段、ご苦労されていることなどありますか?
中島
ある試作品について、それまでにも他の施設で実験したけれどなかなか良い結果がでないということで、当試験場にいらっしゃった企業さんがありました。何をどう測れば、どんな結果が出るか、そしてそれが以前の結果と変わるのか、変わらないのか、私たち自身もまったく予測できない中でスタートして、約2ヶ月にわたる実験をしました。最終的には良い結果が出たんですけれど、手探りでやっていたときの不安感と言ったら半端ではなかったです。
吉成
相談されたときには、そこにどのくらいの仕事量があるのかということがなかなか予測しきれないんですね。たとえば企業であれば、ある程度製品が決まっているので、個別のノウハウが貯まりやすいのですが、我々への相談は幅広い分野から突然来ますので貯まりにくい。今ではだいぶ事例が貯まってきたので、前ほど慌てなくなりましたが、あまりにリスクが高い場合はご相談のうえお断りすることもあります。もちろん、あれこれ考えるよりも思い切って予備試験をやったほうが良い場合もあります。
山田
特に、予測が立たない探索的なものの場合には、人間工学に対する理解とお互いの認識の一致が重要ということですね。
苦労する反面、良かったとか面白かったということや、醍醐味についてはいかがでしょうか?
中島
福祉機器の関係で言えば、現場の人が楽になったと喜んでくれることですね。私たちの部署は他の部署に比べて、ユーザーさんに近い仕事をしています。そこで扱っているモノで楽になったとか、そういった声を聞けるのはやっぱり一番、気持ちの良い部分ですね。
山田
良かったと言っていただくためには、いろいろ積み重ねていかなければならないこともあると思うのですが。
中島
そうですね。こちらがこういうふうに使ってもらおうとやったことが、ぜんぜん役に立たなかったというケースもあります。反対に、ああでもない、こうでもないと試行錯誤した結果、うまくはまってくれたときはうれしいですよね。

図1.UDスコップ
図1.UDスコップ

山田
うまくはまるときというのは、振り返ってみるとどんな時ですか?
中島
製品評価などでユーザーさんのご意見を聞くことがあるのですが、どんなに丁寧にコミュニケーションをとってもユーザーさんの口からは出てこないところ、つまりユーザーさん本人も気づいていないところに問題や解決の手がかりがある場合があります。そういった部分をどうくみ取るかというところがポイントのような気がします。
スコップの事例(図1)*2 でも、ユーザーさんから「柄がまっすぐだから不自然な姿勢になり使いにくい」という意見が出てきたわけではありません。
吉成
企業から相談される多くの事例で、我々は協力者にはなれますが、開発者にはなれないです。つまり、持ってきたモノを見て意見は言えますが、開発そのものは企業さんのお仕事です。そういう中で、何かを解決するための提案を作れることが研究や技術支援という仕事の醍醐味じゃないでしょうかね。機械をはじめ、いろいろなモノの開発に関わってきましたけれど、良い提案が出来れば、想定以上に良いものができたりする、それが醍醐味でしょうね。
予想以上のものを作り上げるために、また企業の事業として成り立つように、デザイン部門の協力を得ながらやっています。我々にはデザイン部門が同じグループ内にあるんです。企画・コンセプトに関わるユーザー調査とか、あるいは分析の手法など、デザインのほうが得意な部分ですよね。
デザインに関わる相談では、売れるデザインをしてほしいというものが多かったのですが、最近では色や形のデザインだけではなく、そもそもどのような商品を目指すべきかという相談も増えています。また、少なくとも、これはもう最初から失敗の可能性が高い、ということがわかる場合があり、そのときは上流の企画段階まで遡ります。反対に、ここに着目したら成功のほうに持っていけそうだという仮説づくりが出来ることもある。そういった整理の手法はデザイン部門のほうが長けていると思います。なるべく、良い方向に持って行こうという細心の努力をしながらやっています。
山田
デザイン部門の方との連携についてお聞かせください。
吉成
人間工学会にもデザインに携わる会員さんがいらっしゃると思いますが、彼らの仕事は見ていて大変だと思いますね。傍目では派手に見えますが、実は地味な仕事も多いですよね。膨大な調査をして、いろんな分析をしながらやっていきますので。そういう点では人間工学分野と似ているかもしれません。


今後の取り組み
吉成
最近は高齢労働社会に向けた軽労働化に取り組んでいます。自動化や省力化も必要ですが、支援用具の導入や工夫により、人ができる作業を少し楽にすることも重要です。これから高齢者が増えていきますが、定年を迎えて65、70歳になっても元気な方が8割います。高齢者が社会の担い手として就労できたり、元気寿命を少しでも長くして、生き甲斐をもって生活できるように支援していこうということでやっています。
ひとつの例として、栗山町という札幌近郊の町で、町民の方に多数協力いただいて、6週間に渡り日常的に除雪を行う実験をしました。普通のまっすぐな柄と曲がった柄(図1)とで比較対照群を作りまして、実験スタート時と終了時に体力テストを行ったところ、特段、曲がった柄で楽になったから体力が落ちたという結果にはなりませんでした。このフィールドテストをしたときのある方の感想ですが、UDスコップの構造上、少しぶら下がるような感じになるので、持つときに握力がなくても支えるだけで姿勢がぶれないという点も気に入っていただけました。
今後、いままでよりも長めに生活や労働の場で使っていただいてどうかというのを、スコップに限らずさまざまな支援用具で見ていきましょうという動きを進めているところです。
中島
新しい医療用の計測機器を作ろうと考えています。新しい簡便な機器はどんどんでてきています。たとえば、スマートフォンで簡単に計測できたりするものもでてきています。工業試験場の特質上、ソフトウェアとかハードウェアを作る技量は持っているので、それらを合わせて開発できないかと。
山田
どちらも楽しみですね。本日は、どうも貴重なお時間をありがとうございました。今後のご活躍を期待しております。

*1平成22年に22の旧道立試験研究機関を統合し設立された。
*2UDスコップ。除雪時の体幹前屈や側屈を少なくするS字形状の柄が特徴。


山田クリス孝介

インタビューア:山田クリス孝介(やまだくりすこうすけ)
佐賀大学医学部地域医療支援学講座 助教。博士(工学)。
専門は、ストレスの測定と評価、ストレスマネジメント、医療機器の人間中心設計、現場参加型研究など。


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